2024 年 08 月 29 日掲載
2024年7月、創立100年を迎えた囲碁の日本棋院。その節目の年に、武宮陽光六段が新しい理事長に就任しました。武宮陽光氏は、昨今の財務状況の悪化と、東京本院の老朽化という重大な課題に直面していることに対し、どのように立ち向かうのか。就任間もない武宮理事長にお話を伺いました。
理事長就任を決意
武宮氏が理事長選への出馬を決意したのは、3月の締め切り直前だったです。彼は、当時の執行チームの運営方針に疑問を抱いており、「前理事長の小林覚氏と執行チームが内部で自己決定を行っているように感じ、棋士たちへの説明が不十分だと感じました」と語りました。もし誰も立候補しなければ、小林前理事長が再任されることになり、それは過去のやり方を容認することになると考えた武宮氏は、「選挙が必要だと考え、出馬を決意しました」と説明しています。
未経験からの挑戦と不安
理事経験が全くない中での立候補は、不安がなかったわけではないそうです。しかし、武宮氏は「私はプロ棋士として特別な成果を上げていませんし、理事長にもっとふさわしい人も多くいますが、誰も立候補しない中で周囲の支持を受けて、私は立ち上がりました」と述べました。「前執行チームのやり方に不満を抱いていた多くの人々が私を支持してくれたのだと思います。今、頭の中はさまざまな考えでいっぱいですが、もしかしたら経験がないからこそ、何か違った変化をもたらすことができるかもしれません」と、新理事長としての決意を語っています。
財務問題
現在直面している最大の課題として財務問題を挙げました。前理事長の小林覚氏が、非常に困難な状況下で5年間の任期を全うしたことを評価しつつも、「外部の専門家の意見を取り入れることで、さらなる改善が期待できる」と語りました。武宮氏は、早急に日本棋院内部に経営改革委員会を設置し、外部から有識者を招き、問題に対応するための知恵を借りたいとの意向を示しています。
東京本院の老朽化問題と再開発計画
東京本院の施設老朽化に対する対応について、武宮氏は「千代田区市谷は非常に良い場所であり、施設の売却や移転は慎重に検討すべきです」と述べました。一部には施設を売却して他の場所に移転する案もありますが、武宮氏は現地の再開発計画を見据え、可能な限りこの場所を有効活用することが理想的であると考えています。また、この問題についても外部専門家の意見を積極的に取り入れ、棋手やメディアへの丁寧な説明を通じて、慎重に進める方針を示しました。
棋士の引退制度導入に向けた議論
将棋界とは異なり、囲碁界には強制的な引退制度がないことが財政的な負担となっているという指摘に対し、武宮氏は「将棋界のように引退制度を導入することは、議論が必要です」と述べました。これまで、日本棋院は財務状況を棋士にほとんど公開してこなかったため、具体的な状況が不明確なままでした。まずは、財務状況の詳細な検討を行い、その上で適切な対応策を考えていくとし、透明性の向上を目指す姿勢を示しています。
IT技術で若者を囲碁に引き込む
武宮陽光新理事長は、囲碁人口の減少に対して、IT技術の活用が不可欠だと強調しました。彼は、「スマートフォン向けアプリのコンテンツを充実させることで、若年層のファンを惹きつけたい」と述べました。また、囲碁が子供の能力向上に寄与し、高齢者の脳の老化予防にも効果的である点を、広くアピールしていきたいという意向を示しています。
親しみやすさが最大の強み
連続して棋士が日本棋院の理事長を務めることとなりましたが、武宮氏は自らの強みについて、「棋士として各地を訪れ、多くの人々と友好な関係を築いてきたことが私の財産です」と語りました。ファンにとっては「親しみやすく、話しやすい存在」であることが、彼の大きな利点であると自負しています。
2026年6月までの任期、掲げる目標
武宮氏の理事長としての任期は2026年6月までです。囲碁が2000年以上の歴史を持つ「喜びを与える偉大なゲーム」であるとし、その魅力を広め、さらなるファンの獲得を目指しています。「興味が多様化する中で囲碁の注目度が下がっているが、囲碁の面白さと魅力を伝え、もっと多くの人々に親しんでもらいたい」と述べました。そのためには、ファンとの距離を縮め、積極的な交流を図るとともに、広報活動の強化と発信力の向上が重要であると強調しています。