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ナショナルチーム監督就任、高尾紳路九段に聞く
世界タイトル奪還への道は

2019 年 05 月 25 日掲載

世界タイトル奪還への道は ナショナルチーム監督就任、高尾紳路九段に聞く

久しく遠ざかっている日本勢の囲碁世界タイトルの奪還を期して、今春、日本ナショナルチーム監督に元名人本因坊の高尾紳路九段(42)が就いた。前世紀まで一頭地を抜く存在だった日本は、なぜ中韓の後塵(こうじん)を拝するようになったのか。タイトル奪還の課題は何か。高尾新監督に聞いた。

――日本勢の世界メジャーのタイトル獲得は、2005年の張栩名人(39)が最後。その後は中国、韓国の独占状態だが、実力的にも日本は劣っているのか。

 「いま世界で一番強いのは中国、次が韓国、その次が残念ながら日本ということになると思う。中韓の世界トップクラスと日本の第一人者、井山裕太四冠(29)の実力差はほとんどないが、日本は井山さん一人で戦っている。井山さんといえども、世界戦のトーナメントで頂点まで勝ち続けるのは並大抵ではない」

「対して中国の世界トップクラスは、少なく見積もっても20人以上はいる。韓国も5人ぐらい。トップクラスの人数が多ければ多いほど、その国の棋士が頂点に立つ確率が高まる」

――20世紀後半まで日本は世界最強だった。なぜ中韓に抜き去られたのか。

「最強といっても、断トツで強いわけではなかった。世界戦のさきがけとなった勝ち抜き団体戦『日中スーパー囲碁』は、1984年の第1回から3回連続で中国が日本を破っている。ただ、その後はっきり中韓に越され、差も広がっていった」

「原因の一つは、囲碁人口の差だと思う。僕の小中学校9年間で、僕以外に学年で碁を打つ人は一人もいなかった。対して中国は子ども教室が大人気で、生徒数が何万人という教室もある。そこから若くて強い棋士がどんどん出ている」

――今の日本勢に世界タイトルの可能性はあるか。

「ここ最近、日本にも若くて優秀な棋士が出てきた。たとえば世界最強の中国の柯潔(かけつ)九段(21)に勝ったことがある日本の棋士は井山さんしかいなかったが、昨年に芝野虎丸七段(19)、今年に一力遼八段(21)が柯潔さんに勝った。明るい材料だが、さて実際に世界戦で優勝できるかとなると、まだ足りない。何回か打って1回勝てても、それで何十人のトーナメントで優勝するには無理がある。ただ、もう手が届くところまで、あとちょっとという感じはあるが、そのあとちょっとがたいへん。それが何かがわからない。わかれば僕も世界タイトルを取っている」

「世界戦では速く、正確に手が見える棋士が有利。その点では一力さん、芝野さん、それに許家元(きょかげん)碁聖(21)は頼もしい存在ではある。でもその特長は、当然ながら中韓の棋士も身につけている。それだけではないプラスアルファを身につけるには、努力しかない。若くて優秀な棋士が一人でも多いほど競争が厳しくなり、必然的にレベルが上がる。井山さんクラスが5人そろえば、日本も世界で優勝できる。5年以内に優勝したい。その可能性は十分にある」

――ナショナルチーム監督として何ができるか。

「囲碁は個人競技なので、監督としてやれることは限られているが、若い人の刺激になる環境を整えたい。これまでチームの研究会を不定期にやってきたが、とりあえず隔週土曜日に東京でやることにした。夏冬の年2回の合宿も続けていく。中韓トップ棋士との交流も積極的に進めていきたい。直接接することで、棋譜では得られない空気に触れてほしい」

「チームには井山さん、張栩さんら第一線の棋士のほかに、仲邑菫(なかむらすみれ)初段(10)など10代の育成選手がいる。囲碁AI(人工知能)との付き合い方は全棋士の課題だが、若い人ほど柔軟にAIの考えを採り入れている。研究会でもAIで検討しているが、彼ら、彼女たちが、僕らとはまったく違う発想で強くなっていくのか、たいへん興味深い」